日本マクドナルド事件の「名ばかり管理職」を改めて考える

名ばかり管理職

皆さん日本マクドナルド事件を覚えているでしょうか?「名ばかり管理職」というワードが話題になりました。

結論から言うとマクドナルドの店長は、労働基準法が定める管理監督者とは認められませんでした。平成20年1月東京地方裁判所で、日本マクドナルドの店長が労基法上の管理監督者には当たらないとして、残業代等約750万円の支払いが命じられています。

そもそも何故企業が管理監督者を増やすかと言うと、管理監督者には残業代を支払わなくて済むからです。正確には管理監督者であっても深夜割増の支払いは必要ですが。

実は、店長が労基法上の管理監督者に当たらないとされた裁判例は、ずいぶん以前からあります。レストランの店長やカラオケ店の店長など、店長とはいっても、事実上長時間の労働時間が常態化し、マクドナルド以上に厳しい勤務実態であった案件が多くあります。

 

裁判で管理監督者に該当するか否かのポイントは、①職務内容・権限・責任等、②労働態様・労働時間管理待遇です。以下①②➂がポイントです。

職務内容・権限・責任等
店舗従業員・部下の採用・人事考課等の権限を有しているだけでは足りず、会社の経営に関する決定に参画することが必要です。マクドナルドの店長は、各店舗の人員について採用や勤務シフトの決定など店舗経営において重要な職務を負っていますが、経営者と一体的な立場で企業全体の経営には関与していないため、管理監督者には該当しないと判断されました。

勤務態様・労働時間管理
マクドナルドの店長は、自分の労働時間を自由に決定できる裁量性がありました。しかし実態は月100時間を超える残業があるなど長時間労働を強いられていたことが重視され、実質的に労働時間を自由に決定できない状況であった為、店長の管理監督者性が否定されました。

待遇
マクドナルドの店長の平均年収は700万円余、ファースト・アシスタントマネージャーの平均年収は590万円余であったことから、店長は、たしかに、その地位に相応しい優遇を受けていたように見えます。しかし、店長の中でもC評価の店長の年収は579万円と、ファースト・アシスタントマネージャーの平均年収を下回り、B評価の店長の年収は635万円と、ファースト・アシスタントマネージャーの平均年収を上回るものの、その差はわずか44万円しかなく、店長の労働時間の長さを考えると、十分な優遇とは言えないと判断されています。

日本マクドナルド割増賃金請求事件判決(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)は以下のように判示しています(管理監督者性に関する規範部分のみ抜粋しています)。

使用者は,労働者に対し,原則として,1週40時間又は1日8時間を超えて労働させてはならず(労働基準法32条)、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分,8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならないし(同法34条1項)、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないが(同法35条1項)、労働基準法が規定するこれらの労働条件は、最低基準を定めたものであるから(同法1条2項)、この規制の枠を超えて労働させる場合に同法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であるといえる。
しかるに、管理監督者については、労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条2号)、これは、管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、上記の基本原則に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。
したがって、原告が管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、③給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。
この点、被告は、管理監督者とは、使用者のために他の労働者を指揮監督する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいい、その職務の内容が監督か管理の一方に分類できない者でも、労働時間の管理が困難で、職務の特質に適応した賃金が支払われていれば、管理監督者に当たると主張するが、当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば、経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは、上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず、これを採用することはできない。

 

 

働き方改革関連法令の時間外労働上限規制で、これまで働き過ぎの防止は努力義務に過ぎませんでしたが、改正後、違反した場合に罰則(懲役刑か罰金刑)が設定されました。中小企業は2020年4月から適用になりますが労働基準監督署はこれまで以上に厳しい対応をしてくることが予想されます。名ばかり管理職に対しても厳しい対応になっていく可能性が高い為、早めの対策が求められるのではないでしょうか。

 

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